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京都家庭裁判所 平成元年(少ロ)1号 決定

主文

本件請求をいずれも棄却する。

理由

一  本件刑事補償及び費用補償請求の趣旨及び原因は、刑事補償及び費用補償請求書記載のとおりであるが、要するに「請求人は、同人に対する業務上過失傷害、道路交通法保護事件につき、京都家庭裁判所において平成元年三月二八日非行事実なしとの理由で保護処分に付さない旨決定されたが、同人は右事件により同年二月一五日逮捕されてから同月二一日観護措置が取り消されるまで、七日間にわたり拘束され、四回の審判期日に出頭しており、また、多量の捜査資料の謄写及び検討等を必要としたので、刑事補償法に基づき刑事補償としては最高額、刑事訴訟法一八八条の二に基づき費用補償としては金三〇万円の交付を求める。」というのである。

二  そこで検討するに、本件記録及び関係記録によれば、請求人は業務上過失傷害、道路交通法違反被疑者として平成元年二月一五日司法警察員により緊急逮捕され、同月一六日検察官の観護措置請求に基づき観護令状が発付され即日京都少年鑑別所に収容された後、同月二一日当裁判所に送致されて業務上過失傷害、道路交通法違反保護事件として係属し、同日第一回審判が開かれ、証人の取調べを経て即日観護措置が取り消されて鑑別所を出所するまで七日間身柄を拘禁されたこと、その後同年三月二三日、同月二七日及び同月二八日にそれぞれ審判が開かれ、請求人が各審判期日に出頭したこと、請求人の付添人が同年二月二一日関係人からの事情聴取書を添付した観護措置取消請求書を提出したこと及び同月二八日の審判期日において請求人に対して非行事実なしとの理由で保護処分に付さない旨の決定がなされたことがそれぞれ認められる。

三  ところで、刑事補償法一条によれば、同法により補償が認められるのは刑事手続による無罪の裁判があった場合であり、少年法による身体拘束処分についても、刑事手続による無罪の裁判で終結した場合には補償が認められる旨規定されているが、本件のように非行事実なしとの理由で保護処分に付さない旨の決定により事件が保護手続に終始した場合の身体拘束処分については、補償の対象となる旨の規定はない。

即ち、身体拘束当時は保護手続による身柄の拘束であっても、事後的には刑事手続として無罪で終わったことにより、一連の手続を包括的にみて刑事処分を志向した手続と見ることができるからこそ刑事補償の対象となる旨規定されているのであって、事後的にも保護手続で終わった本件では、当時の身体拘束も刑事処分を志向した手続とはみれず、あくまでも保護手続上の身柄拘束なのであり、少年保護手続は少年を処罰してその責任を追求することよりも少年の健全な育成を主たる目的とするなど刑事手続とはその理念を異にし、保護手続における非行事実なしとの理由による不処分決定を刑事手続における無罪の裁判と同視することもできないことから、本件に刑事補償法を適用乃至準用して刑事補償の対象とすることはできないものと解さざるを得ない。

四  更に、刑事訴訟法一八八条の二第一項が、無罪の判決が確定したときは、当該事件の被告人であった者に対し、その裁判に要した費用の補償をする旨規定しているのも、刑事補償法と同様の基本理念のもと、補償の範囲を、身体拘束の場合だけでなく、刑事手続にまきこまれたために出捐を余儀なくされた費用についてまで広げたものであり、やはり、非行事実なしとの理由で保護処分に付さない旨の決定により保護手続に終始した本件を右無罪の判決が確定した場合とは同視できず、本件に同条項の適用乃至準用をすることはできない。

五  以上により、本件請求はいずれも理由がなく、刑事補償請求については刑事補償法一六条後段により、費用補償請求については刑事訴訟法一八八条の七、刑事補償法一六条後段によりいずれも棄却することとし、主文のとおり決定する。

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